お手てつないで手術室

何か不都合はありますか」について

40歳を過ぎて間もなく、敏感な体質のおかげで失明を免れたことがある。

暮れから、目の前に髪の毛が垂れ下がっているような感じがあった。割れた鏡を見ると幾筋も黒い線が見えるような、あんな感じである。仕事の忙しさからくる疲れとは少し違うと思い、大事をとって年末は正月の支度もせずに休んでいた。年明け早々眼科に行ったところ医者は暗室で検査をするなり「大変だ。すぐ手術をしないと失明するよ」と顔色を変えた。私はそんなに大変なことになっているのかと不安に駆られた。先生は私の手をつかんで、同意書は後で書いてもらうからといいながら2階の手術室に向い、レーザー手術をすることになった。 

私はわけがわからないまま先生の指示どおりに立って、そこから数メートル離れたところから先生が銃のようなもので私の左目をねらって発射した。死刑囚ってこんな感じかなと思ったが、すぐにそんな雑念は消えるようなバシバシという数発の発射音とともに、左目が鈍い圧迫痛に襲われた。しばらく目をこすらないでと言いながら、私が階段から転げ落ちないように先生はまた私の手を引いて診察室に戻った。  

左目の網膜に大小合わせて7個の穴があいていたそうだ。「大きいのは直径7ミリもあって、網膜が破れて水が入ったら失明するところですよ。穴の周りはすべて焼いたから大丈夫だと思うけれど、何か異常を感じたら夜中でも救急車ですぐに病院に来るように。今後数年は定期的に検診に来てください。穴があいた原因がわからないので、体に振動を与えると網膜剥離を起こす危険があるので、縄跳びや走ったりなどの特に上下に激しい運動は避けるように」と注意を受けて帰宅した。 

目にボールが当たったとか硬いものが落下して目に当たったとかの外的要因がない限り、なぜ穴があくか原因がわからないとのことだった。過労とかストレスが関係するかもしれませんねという説明に、速記者として、期限までに会議録を作成するという時間に追われる仕事だからストレスもたまるし、暮れは市議会の仕事をかけ持ちでこなしていたから過労もありで、そのせいだろうと納得した。 

異常に気づくのがおくれて、急に目の前が暗くなってそのまま失明する人も少なくないという。飛蚊症という、目の前にごみや蚊がちらついているような症状と似ているが、網膜剥離を起こすと失明のおそれがあるというから、少しでも異常を感じたら受診するにこしたことはない。 

レーザー手術の後、左目を閉じて明るい方に目を向けると、まぶたの内側が張り巡らされた毛細血管で赤く、その中にレーザー治療で焼きとめた黒い点がぽつぽつと幾つも見えた。見えたというより、感じられた。無事に穴がふさがっていると安心し、一日に何度も目を閉じては太陽に顔を向けた。その黒点は十数年もずっとまぶたの中に残っていた。 

まぶたの中の黒点が消えたころから、徐々に生活も普通に戻し、目に振動を与えないようにエリマキトカゲのごとく地面をはうようにではあるが、駅まで走ることもできるようになった。ダンスも、目を気遣うことなくクイックステップもジャイブもすべての種目を楽しむことができ、発見が早くてよかったと思う。 

こんなことを考えると、過敏な体質も捨てたものではない。大変なことも多いが、多分大病になる前に気がついて平穏無事に一生を終えることができるのだろうと楽観している。 

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  • 衣がえ

    Excerpt: 「お手てつないで手術室」について 暦の上での衣がえの日から早くも1週間が過ぎた。最近は衣がえは学校や職場の制服でしか通用しない時代になった。真夏でもブーツを履き、真冬でもひらひら、ふわふわのスカート.. Weblog: 小野口純子 racked: 2010-06-07 13:24
  • きれいな目ですよ

    Excerpt: 「お手てつないで手術室」について Weblog: 小野口純子 racked: 2015-08-13 23:41