ナガコガネグモの悲劇

去年の 〝うちのクモ〟 」について

“うちのクモ”  が1シーズンしか生きないと断言した。その根拠となるであろう 「プラトニックラブ」 と題した文章をご紹介しよう。 
  : そのときには、まだナガコガネグモという名前だとは知らなかったので、 “うちのクモ”  とか “宝石のようなクモ” と記していた。  


プラトニックラブ

2世帯住宅に住む宝石のようなクモが、平成19年の9月にまたあらわれた。3年目である。前年は地上から4メートルものところに巣をつくったが、多分、大きなクモの巣がうっとうしいと思った他人の手で、おもしを入れたレジ袋が投げ込まれて何度か壊された。このクモには学習能力があるらしく、今回は地上から50センチの他人からは見えない草の茂みに巣をつくった。 

この年は観測史上最高を更新するほどの猛暑だった。9月とはいえ焼けるような日差しの中、身じろぎもせずに堂々と巣の中央にいた。前年のクモのように腹も赤く、足は黄色と黒の横じまなので同じ種だとほぼ確信した。それでもどうしても背中の色を確かめたくて 「背中が見えない」 というと、クモは巣を私から見て斜めに張りかえた。それでも見えないというと、また角度をかえた。そんなことが何度か続き、その都度クモは巣の位置をかえて、私からよく見えるように巣を張りかえた。  

数日後、姿が見えないと思っていたら、この親グモはもっと近くで背中を見たいと願った私の意思にこたえるように、濡れ縁から部屋に入る網戸に、部屋の中から背中が見えるようにしがみついていた。濡れ縁に出ようとした私は、余りにも近くにいるクモを見つけて一瞬たじろいだ。そして幾ら背中が見たいと願ったからといって、こんなに間近にクモが来るとは予想もしなかった。
 

網戸の内側にいたのでは、私が濡れ縁への出入りのときに、もっと私の近くにとクモが家の中に入り込むかもしれない。手ではつかめないし、道具で逃がそうとして命を失わせることになるかもしれないと思った。そこで私は 「幾ら何でもここは近過ぎるよ」 と声をかけた。第一、サッシと網戸の狭い空間に閉じこもっていては、えさがとれないではないかという思いもあった。網戸にすき間をつくって2時間半ばかり留守にした間に、クモは姿を消した。あっけなく姿を消されて私は寂しくなり、時折 「会いにおいでよ」 と念じた。

姿を消してから40日ぶりに再び私がこの親グモを目にしたのは、一番外側の物干しざおにぶら下がっている姿だった。隣の部屋からクモを見つけて 「そんなところに」 と思っていたら、屋根の波板のほうにどんどん上っていった。私が、屋根にいたのでは草むらを幾ら探しても見つからなかったわけだと思ってなおも見ていたら、一度は屋根に行き着いたのにまた戻ってきて、それ以来、濡れ縁のすぐ南側の地上から80センチくらいのところに巣を構えた。

あるときは、姿が見えなくて、寒いからついにいなくなったのかと思っていたら 「ここにいるよ」 というように私の目の前にすっと上がってきたことがあった。これらのことから、このクモは私の心を察知する能力も持っていると確信した。

このクモとは恋人のような関係が築けていると思った。しかし、残念ながらメスなので、人間でいえば同性愛だ。背中の色が去年と違うから宝石のようなクモとは違う種かという私の疑惑を解くかのように、それから17日間も寒さに耐えて私のそばにいたが、私は一度もクモを抱きしめたり手で触れることさえしなかった。それでも私はそのクモを愛していた。

それなのに12月5日、巣の中央にV字型の足を1本残していなくなった。多分カラスに食べられてしまったのだ。数日後、残された1本の足を土に埋めようと、ピンセットで採取しようとした。糸が強くてなかなか外れず、そのうちに足がぽとりと地面に落ちてしまった。もう動かないのだから、おじけずに私の手で丁寧に取り除けばよかったと後悔した。

年末になってから、もう戻ってこないのだと自分にいい聞かせるように、網戸にかけられた糸を外そうと思い、網戸とサッシの間をのぞき見て驚いた。網戸の上から中段にかけて40センチほど、雪つりのように円錐状に何本もかけられていた太くて強いクモの糸が、2本ほどの細い糸が風に揺れているだけで跡形もなかった。
 
網戸から姿を消して40日後に戻ってきたのは、その糸を始末するために出てきたのではないか。私に見つかり、あわてて波板の屋根に戻ろうとしたときに 「あら、そんなところにいたの」 と好意的に見ていたので、そのまま私の近くに巣を構えたのではないか。物干しざおから下に太い糸を垂らして鉄柱を利用して空中に浮いているような何とも無防備な巣のつくり方だった。

去年のクモとは背中の色が違うから別種なのかと最後まで疑念を抱いていたために、寒さに耐えてずっと私のそばにいて彼女は非業の死を遂げた。何日も前から数羽のカラスが屋根の上を飛び交っていた。洗濯物を干しながらクモに向かって 「隠れないとカラスに食べられてしまうよ」 と声をかけていたが、それが現実のものになった。何カ月もたつのに、いまだに深い悲しみと後悔と喪失感でいっぱいだ。


私は当時、こんな文章を書いた。 次回に続く  





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